最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)1015号 判決 1960年12月06日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人原田義照の上告理由について。
原判決並びにその引用する一審判決は証拠によつて、上告人が判示軽自動二輪車を操縦し、本件事故現場にさしかかつた際、判示のように、幼児である被上告人静子を認めながら警笛をなくすことも停止することもなく、時速二〇粁で進行し、更に被上告人が車の道路上に走り出るのを発見してもなお無事通過できるものと速断して進行したため、判示のような経過により被上告人に接触し、同人を引摺り道路上に転倒させ、田園に突込んだあげくようやく停止し、同人に対し判示傷害を与えたことを認定し、かような事実関係の下においては、上告人は、被上告人が駈出して来るのを認めながら急停車、避譲の措置をとることなく、無事通過できるものと軽信して進行した過失あるものと判断したのである。このように上告人に過失ありとした原審の判断は優に首肯できる。他方被上告人の監護者に過失があつたかどうかの点については、原審は、本件事故発生現場附近は直線道路で見通しもよく、交通量も少ないほか原判示のような状況であつたこと、本件事故発生当日は原判示のように被上告人の父は農協へ用達に出かけ、母は歯痛のため家で臥していたので祖母が家事の手伝をしながら被上告人を監護していたこと、本件事故が発生した県道は交通上特段注意を要すべき場所とはいえず、また当日も特に交通量が多いことが予想されるような事情もなかつたこと、被上告人の右祖母は被上告人が他一名の子供と共に母屋の表庭で遊んでいるのを見きわめて、農地に用たしに出た直後に本件事故が発生したものであることを証拠上認定し、このような事実関係のもとにおいては、親権者は、被上告人を一人で放置していたものと云い難く、親権者に未だ所論のような過失は認められないと判断したものである。民法七二二条二項の定める、いわゆる過失相殺の制度は、加害者と被害者の損失の分担における当事者間の公平を目的としているものとみるべきであるから、上告人の判示加害行為と対比してみるときにはこの点に関する原審の右の判断は肯認できる。従つて上告人主張の所論過失を原告が否定したからといつて、原告の右判断に所論のような違法ありとなし難く、論旨は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋 潔 裁判官 石坂修一)
《当事者》
上告人 黒川伊太郎
右訴訟代理人弁護士 原田義照
被上告人 玉木静子
右法定代理人親権者父 玉木茂保 同 母 玉木富佐子
右訴訟代理人弁護士 近藤 勝